薬剤師主人公が歴史の闇に疑義照会
作家 高田崇史
明けましておめでとうございます。
大学を卒業して薬剤師となって三十余年。
そして、作家デビューして十五年。
相変わらず畑違いの分野で、主に薬剤師たちが主人公の
歴史ミステリなどを書いています。
ぼくも長い間、OTCや調剤のカウンターに立ってきましたが、
実はミステリなどの謎解きは、患者さんと相対している状況と、
非常に似通っているのです。
特に漢方は、それが顕著です。
まず患者さんを望診して、尋ねて、陰陽、表裏、虚実、寒熱を慮り、
その病を特定していくわけです。
そしてその本人も含め、通常の人であればあっさりと
見落としてしまうようなほんの小さな疑問点から、
その裏に潜んでいた大きな病を発見するというようなことは、
どなたも経験なさっていることと思います。
事実(?)ぼくの小説では「乳棒が調剤台から転がり落ちた」とか
「部屋に入った途端に、顔が赤くなってしまった」などという
些末な出来事が、事件を解決するヒントになったというような
ミステリも書きました。
これらも、ほんの小さな鍵が壮大な謎に繋がって行くという
ストーリーなのですが、今回はお正月ということで、伊勢神宮のお話など。
謎が謎呼ぶまさに洪水
すでに皆様も初詣に行かれたことと思いますが、
初詣といえばやはり神社。
そして神社といえば、シンプルな「神宮」という呼び名が
正式名称の伊勢神宮でしょう。
去年、伊勢神宮では二十年に一度の遷宮が執り行われました。
正殿や御垣内(みかきうち)の建物を全て新造し、
さらに装束や神宝までも新しくするという、大変な行事です。
しかもこの行事は遙か昔、持統天皇四年(六九〇)から
延々と続いているというのですから、想像を絶するような
歴史をもっています。
ちなみに去年(平成二十五年)の式年遷宮は、第六十二回でした。
このように、古い歴史を持つ伊勢神宮ですが、
実は大変多くの謎を秘めています。
いや、古い歴史を持つ神社であれば当然いくつかの謎は持っていますし、
それが「深秘(じんぴ)」となって、神社の歴史に彩りを与えてくれます。
しかし、伊勢神宮に関してその謎を追って行くと、
歴史の彩りなどというレベルの話ではなく、
謎の洪水に溺れてしまいそうになるのです。
その上、「一般には謎と認識されていない謎」まで出てくるので、
全く収拾がつかなくなってしまいます。
伊勢白粉は梅毒に効く?
江戸時代からの隠語で「伊勢参り」という言葉がありました。
これは何を表していたのかといえば「駆け落ちする」ということでした。
また「伊勢にする」という隠語は「なかったことにする」という意味でした。
皇室の祖神である天照大神を祀っているはずの伊勢神宮が、
なぜこのような隠語になったのでしょうか。
そもそも「猫も杓子も伊勢参り」といわれるほど、
江戸時代には伊勢参りが盛んになったわけですが、
果たして当時の人々はそれほどまで信心深かったのでしょうか。
実を言えばこれはあくまでも表向きの理由で、
当時伊勢は「日本三大遊郭」の一つに数えられていました。
しかもそこには、当時としては画期的なことに「女性向けの遊郭」も
あったといいます。
また「伊勢白粉は、梅毒に効く」と言われ、伊勢参りに出かけた
大勢の参拝客が買い求めたとも伝えられています。
しかしどう考えてみても、水銀を主成分として作られた「伊勢白粉」が
梅毒に効くはずもありません。
では、どうしてそんな評判が立ったのでしょうか。
この紙面では書ききれませんが、実はこれもきちんとした裏付けがあるのです。
秘められた壮大な謎
今回は紙面の都合もありますので、ほんのさわりだけですが、
そんな伊勢神宮にまつわる「謎」を、いくつかご紹介してみたいと思います。
現在では殆どの観光客が「内宮(ないくう)」から「おかげ横丁」
そして「外宮(げくう)」へとまわっているようです。
また、「おかげ横丁」で食べて遊んでから、ちょっとだけ「内宮」を
拝んで帰るという無茶苦茶な人たちもいると地元の人から聞きました。
しかし伊勢神宮には、正式な参拝の順序があります。
それは「二見興玉(ふたみおきたま)神社」──「外宮」──「内宮」です。
昔は、伊勢の地に到着したら神宮参拝前に、まず「二見興玉神社」に
詣でるのが習わしでした。
海の上に並んで頭を出した大小の夫婦岩(めおといわ)に、
太い注連縄が渡された写真をご覧になったことがあるでしょう。
あの神社です。
この場所は伊勢神宮の東北──鬼門に位置していて、
以前には誰もがここで禊ぎを行ってから、改めて伊勢神宮参拝に
出発したのです。
ところが、この神社の主祭神は天照大神と全く関係のなさそうな、
猿田彦命(さるたひこのみこと)なのです。
天狗のモデルといわれている神様で、日本神話でも余り重要視されていません。
それなのに、神宮参拝者はなぜ、最初にこの神社をお参りしなくてはならないのでしょうか?
次にお参りするのは、天照大神が祀られている「内宮」ではなくて、
天照大神の食事を司るといわれている豊受大神(とようけのおおかみ)が
祀られている「外宮」です。
こちらの「外宮」は「内宮」よりも、約五百年も後になってから
建てられたといわれているのですから、古い神社である「内宮」から
お参りするのが常識のはずですが、しかし現実は全く逆で、
今も重要なお祭りは「外宮先祭(げくうせんさい)」といって、
こちらから先に行われています。
ちなみに、こちらの「外宮」の造りは「男神」を祀る形式になっています。
しかし豊受大神は間違いなく「女神」なのです。これは一体、どういうことなのでしょう?
そこには、男の神様が一緒にいらっしゃるというのでしょうか。
これらの理由も、謎のままです。
最後に「内宮」ですが、こちらはご存じのように、
天皇家の祖神である天照大神が祀られています。
ところが天照大神は、この地に落ち着かれるまで、
六十年とも九十年ともいわれる間で、なんと二十四ヵ所にも及ぶ土地を
転々とされているのです。
そして、その長い流浪の旅の果てに、ようやく現在の地に落ち
着かれました。
しかも、落ち着かれるに際して、ここは「黄泉の国からの波が押し寄せてくる」
つまり、この先はあの世に通じる海で、もうこれ以上先へは行かれない、
とまでおっしゃっているのです。
では、なぜ天照大神がそのような目に遭われてしまったのかといえば、
崇神天皇六年に、大国主命ともども皇居から追放されてしまったからです。
そのために安住の地を求めて、各地を転々とされたのです。
しかし、天皇家の始祖であるはずの天照大神が、
皇居から追放されたという話はおかしくないでしょうか。
実際にその後、現在に至るまで、皇室の祖神として祀られ
続けているわけですから。
いかがでしょうか。
これでもまだ「伊勢神宮の謎」のほんの入り口で、
これら数々の謎の裏側には、実に壮大な日本の謎が隠されているのです。
そして先ほど書いた「伊勢白粉が梅毒に効く」という迷信のような言い伝えにも、
ここまで論理的だったのかと唸ってしまうような理由があったのです。
ご興味がおありの方は、拙著『QED 伊勢の曙光 (講談社文庫)』(講談社)を
手に取っていただければ幸甚です。
これからもまた、薬剤師や毒草などの生薬を絡めて、
歴史の謎を追うような、一般のミステリとは少し違った作品を
書き続けたいと思っています。
高田崇史(たかだ・たかふみ)
作家、昭和33年東京都生まれ。
明治薬科大学卒。『QED 百人一首の呪 (講談社文庫)』(講談社ノベルス)で
第9回メフィスト賞を受賞しデビュー以来、「QED」シリーズ、
「カンナ」シリーズで歴史の闇の謎解きと推理小説を融合させた
独自のスタイルを確立し、「鬼神伝」シリーズ(2011年アニメ映画化)など
講談社、幻冬舎などから次々に作品が発行されている。
近作に『軍神の血脈 ~楠木正成秘伝~』(講談社)
この記事は、薬事日報2014年1月1日特集号‐新春随想‐に掲載された記事です。
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2000年ホームページ作成会社設立。約500サイト以上の作成・運営に携わる。
座右の目「ライバルは同業者ではなく、お客様の心」
本業はWebコンサルタント・Web作成・管理・運営。志摩市志摩町御座出身。自然大好き人間。昆虫、水生昆虫・魚など大好き。特にヤゴ・グッピー。
伊勢志摩にある某宿泊施設の売り上げを前年度比350%アップした自分で言うのもアレですが大した者です。
また、通販部門では某サイトの売り上げを前年度比500%アップなど20年研究し続けている独自のロジックにハマると何ぞかをやらかします。(笑)
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